野外ビジョントレーニング

視機能向上の道(大阪城公園)の紹介≪桂孝次郎・梅岡宏史≫

筆者らは、日常、斜視、弱視など視力の悪い子に接する機会が多く、何か視機能を向上させる良い方法がないか考えている。 今回、筆者らは趣味である昆虫・植物などの自然調査の依頼を受け、大阪城公園に頻繁に通うようになった。
大阪城公園は大阪市中央区にあり、市民の憩いの場である。日本有数の大きな城跡のある公園だけあって、市内のほかの公園(靭公園など)と違い、石段や坂道など起伏に富んでいる。
特に二の丸から本丸の石段の上のところは、昔、櫓(やぐら)や土塀(どべい)があった場所で、天端(てんば)と呼ばれている。ここは非常に眺めがよく、市内のビル群は小さく見え、 遠くに北摂の山や生駒山・二上山から金剛山など大阪平野を取り囲む山々を見ることが出来る。さらに眼下には梅林や市民の森が広がり、開放感いっぱいである。 .

筆者らは日常の都会生活、近業作業、とくにパソコンやテレビなどテクノストレスが多い中、ここに来ると別世界のように感じるのである。 つまりここは目にとって”無限に等しいところを見る”という眼科的にも遠方視の訓練によい場所なのである。さらに今回ご紹介するコースは、 遠方視をするということだけでなく、立体視、遠近感の訓練にも非常に良いと考えている。このコース(天端の道)を歩いていると、そこにはエノキの大木など自然に育った大木が多く生え、大きな根っこが出ていたり、坂や、石段もある。 しかもその石段は古いためか、各段が均一でなく凹凸や斜めになっていたりもする。したがってしっかり足元を見て全身でバランスをとりながら歩かないと転げそうになる。 筆者らはその経験から、遠近感がない子や、両眼視機能の弱い子に、ここをしっかり歩かせることで、視機能を全身で鍛えることが出来ると考えた。
実際に、視機能の弱い子に今回つくったコースを紹介したところ、何度もそこを歩いた子供の視力や視機能とくに立体視が良くなっていると感じている。

このコースを歩くにあたっては、
1.アイパッチの子はアイパッチをはずして歩くこと。
2.親子(安全面も考慮してできればお父さんも同伴)で行くこと。特に視力の発達が悪く歩きにくい人や小さい子供は、親が手を添えてやることなどをお願いした。
3.また熱中症対策・ヤブ蚊対策を忘れないようにお願いした。
郊外の自然の多いところへ登山するもの良いが、ここなら気軽に行け、散歩する人も多いので安全でもある。ビジョントレーニングというと室内でいろんな器具を使って行うことが多く、そのことも大切であるが、筆者らは視機能の発達、眼を鍛えるのは室内より野外、しかも自然にふれあいながら、平衡感覚や遠近感覚など、全身で修得することが一番だと考えている。

【謝辞】
この報告にあたり、ORTの柳原祥吾氏にはデータの整理や現地でのご指導に大変お世話になった。また先輩の辻井隆昭氏と桂苗美の両氏には大阪城公園での安全対策や子供の指導にご協力いただき、ここに厚くお礼申し上げる。

【要約】
野外ビジョントレーニングの成果というのは、今のところよく解らないが、私たちは、視力、視機能(特に両眼視)の向上について、特に発達時期の子供には、室内より野外に行って、全身で鍛える(強くする)ことが一番大切だと感じている。また、このコースに行くことは、大人にとっても、都会生活の限られた狭い空間で一日を過ごすことが多い中、無限に近い場所をながめるという開放感と、ここは自然生林の森があるので、フィトンチッド(森林浴)の爽快感や、テクノストレスの解消など、身も心もリフレッシュできるものだと考えている。私たちは、今回提案したコースは、簡単に行くことが出来、このようなコースを設定することは、作るほうも行く方も費用がかからず、また地域の愛着にも繋がり、良いとおもっている。とくに都会環境にある各市町村、眼科、眼鏡店から、提案されてはどうかと考えている。